神語りの決闘録②─ヤツハvs遥原夕羅
※この段落は前回の記事とほぼ変わりませんので読み飛ばしても大丈夫です
はじめましての方ははじめまして、そうでない方はいつもお世話になっております、幼女です
公式小説、読んでますか?普段宿しているメガミたちや、新しい拡張に登場する予定のメガミやそのカード、そして我々と同じミコトとして桜降る代に生きる人々の物語など、ふるよにの世界観をふくらませてより魅力的にしてくれる素晴らしいコンテンツです。
しかしこの公式小説、中々分量が多くて読むのは大変ですよね。皆さんの中にもきっと「興味はあるけど、読む時間/気力がないなぁ」という方もいるはずです。
そこでこの記事シリーズでは、公式小説の中でも特に「決闘」を描写したシーンを抜き出して「ここの描写はこのカードのことなんじゃないか?」みたいなことを勝手に解説していきます。あくまで一読者の考察(という名の妄想)であるため必ずしも正しいわけではありませんが、ふるよにの物語に触れるきっかけになれれば嬉しいです。
ヤツハvs遥原夕羅(『八葉鏡の徒桜』エピソード1-6:山城ではじめての〇〇(後篇))
あらすじ:クルル、ハツミと共に瑞泉を目指す道中、三柱は山城を訪れます。そこでメガミ・ミズキとメガミ・コダマと出会う。なんやかんやあってミズキとコダマの代理戦争としてヤツハと、コダマを宿すミコト・遥原夕羅が決闘を行うことに。
ヤツハが初めて桜花決闘を行うシーンです。作中における現代での桜花決闘の在り方と、自身の力へのはっきりとした敵意に初めて触れるシーンでもあります。二回連続とかこいつさてはヤツハ大好きだな?
この決闘では現在の新幕ふるよにでまだ未実装のメガミ・コダマの力が使われていますが、なんとこの戦いを再現した物語セット(専用カードを含む構築済みデッキで戦うセット)が公式から無料公開されています。本記事ではこの物語セットに基づいて解説していきますので、興味がある方はぜひ試しに遊んでみてください。
物語セットはこちらから。一番下の「物語セット目録」にある「物語9:はじめての代理戦争」でダウンロードできます。
また、この物語セットに使われているミズキやコダマのカードは新幕ふるよにに実際に実装されてるカードと効果が異なります。そういったカードを解説する際は物語セットの画像を使用します。
それでは解説に移りましょう。
どこからか、不思議な力が流れ込んで、身体に通っていく。そうとしか説明できない感覚が桜花決闘に臨むヤツハの意識を満たしていく。
その力は初め、どこかよそよそしく感じられた。けれど、それが他人から借り受けたもの――ミズキの力だと気づくと、己を護る力としての頼もしさが背中を押してくれるような感覚へと移り変わっていくようだった。
そして僅かな後、あるいはヤツハにとっては力を受け入れた相応の後。第一の流れを追うように、ヤツハの身体にはもう一つ、別の力が流れ込み始める。
その力はどこか懐かしいようで、ようやくあるべき場所へ帰ってきたような安心感があった。ミズキの力に護られていることとは違う、己の内側にあることがもっともらしいと思えるような、そんな安心感だった。
しかし、だ。その優しい感覚も刹那のうちに過ぎ去った。
代わりに流れ込んできたのは、身震いするような恐ろしさを伴ってやってくる、暴虐的な力の奔流であった。
「うっ……ああっ……!」
相手を前にしていることも一時忘れ、両腕で身体を抱くようにして耐えるヤツハ。内側から弾けてしまいそうな苦しみに喘ぎながら、ただ祈るようにして怒涛が収まるのを待ち続ける。
やがて、どうにか耐え忍んで息を落ち着けた頃には、その力の奔流を体現する物が彼女の隣に現れていた。
──エピソード1-6:山城ではじめての〇〇(後篇)より──
名目上はミズキとコダマの代理戦争ですが、ヤツハの力を見極めるための戦いでもあります。ミズキ側として戦うヤツハは、自身の力に加えミズキからも力を借りています。
まだ力の扱い方に慣れていないようで、自身の象徴武器を出すのにも一苦労です。
「おおっ!? これはこれは……」
真っ先に声を上げたのは、歪んだ笑みを浮かべたクルルだった。
鏡。北限の地にて、コルヌを退けたあの鏡が、ただ静かに宙に浮かび、夕羅の姿を映し出していた。
唯一ヤツハの様子に心を砕いていたのはハツミだけであり、この代理戦争の主人たる二柱は対照的な反応を見せていた。ミズキは目を細めるようにして冷静に観察し、理解に努める一方で、コダマはどこか呆然としながらも、口元は笑っていた。
そして相対する夕羅は、彼女の宿すメガミと同じく表面上は呆れながらも、飄々とした態度を潜めて眼光鋭くヤツハを睨んでいた。
「やっぱりキミはあの鏡を使っていたんだね」
売りに出されていた欠片と同じ文様が、現れた鏡の縁にはっきりと刻まれている。肝心な経緯を教えていない以上、夕羅の誤解も当然だったが、この段になって誤解を解く余裕はヤツハにはなかった。
夕羅は顕現させた鋼の拳を打ち鳴らし、力を溜めるように重心を沈める。飾り気のない鉄の板で覆っただけの手袋だからこそ、コダマの顕現武器には純粋に威力を求める意思の発露を感じさせてやまなかった。
──エピソード1-6:山城ではじめての〇〇(後篇)より──
ヤツハと夕羅は、実は今回の決闘より前に一度会ったことがあります。鞍橋の市場で、ヤツハは自分が扱う鏡に似た力を持つ破片を見つけたのですが、「それは危険な代物」「異質で、気味の悪い力」と夕羅に止められてしまいます。夕羅はまだヤツハのことを「鏡の欠片を使って謎の力を手に入れたミコト」と思っている様子で、ヤツハは夕羅を「自分の存在を否定する者」として捉えています。ヤツハを心配するハツミてぇてぇよ……
夕羅は主にライラを信奉している稲鳴の部族の出身であり、ライラ/コダマを宿しています。
そして、
「でもその力、ボクが打ち破らせてもらうよッ!」
言い終わると共に弾かれたように踏み出し、先手の動きを作る夕羅。身体を軸を僅かに左右にずらしながら、猛然と前へと駆け出した。
「あっ……! え、ええと……」
対するヤツハはそれにまず動揺を示してしまう。決闘の流れこそ教えてもらいこそしたが、誰も力の詳細を分かっていないのに戦い方を授けられるわけもなく、夕羅の機敏な動きに初陣のヤツハはただただ慌てることしかできなかった。
──エピソード1-6:山城ではじめての〇〇(後篇)より──
ボクっ子かわいい
夕羅が宿すライラ/コダマはほとんど間合2以下でしか攻撃できないため、先んじて間合を詰めていきます。鏡の欠片のことを知っているため、ヤツハの攻撃間合もある程度把握していると思われます。
一方ヤツハは当然ながらなにも分からないため、その場で慌てることしかできません。
それを見て取ったか、
「ほら、来ないのかい!?」
半分ほどの間合いをもう詰めようかというところで、盾のように手の甲を向けて構えられた両腕の合間から、嘲笑う夕羅の表情が覗く。
混乱ここに極まったヤツハは、半ば考えることを放棄しながら、己に満ちる力に意識を注いでいた。
想起するのは、北限の番人に膝をつかせた恐ろしい星空の怪物たち。
鏡から溢れてきたあの巨腕や牙こそ、ヤツハの知る唯一と言っていい攻撃の形だった。夕羅のように己の身体でどうにかするなんて考えもしなかった。だからただひたすら、自身の力があの形となって鏡から現れることを願いながら、少しでも時間を稼ぐように後退ることしかできなかった。
しかしてそのがむしゃらな祈りは、現実となって現れる。
今まで夕羅だけを映していたはずの鏡の奥から、蠢く星空が鏡面を食い破るようにして世界に溢れ出した。
「おっ」
夕羅の前に織り成したのは、人一人を飲み込んでしまえるほどに大きな獣の顎である。夕日に炙られたように赤みがかった夜空の色は、凄惨な威力を物語っているようだ。
──エピソード1-6:山城ではじめての〇〇(後篇)より──
まだ自分の間合に入っていないがここで夕羅は一度足を止め、ヤツハを挑発します。ヤツハは北限で一度だけ使った鏡の力を思い返し、それを形にします。
だが、放たれた猛獣を前に、夕羅は小揺るぎもしなかった。
「はッ!」
襲いかかった大顎の横っ面を、その硬い拳の甲で鋭くはたき落とす。ひび割れた地面に打ち据えられるというところで、呻き声一つ上げることなく獣は宙に溶けていく。
──エピソード1-6:山城ではじめての〇〇(後篇)より──
撃ち落としを使用して、昏い咢を打ち消します。対応不可(通常札)はまだ付いてなかったので、あえなく攻撃は消えます。夕羅が一度足を止めたのは、あえて昏い咢の間合に留まって打ち消しを狙っていました。初心者に初見殺しを仕掛ける夕羅ちゃんかわいいね。
(新幕のカードとの微妙な違い、わかるかしら?)
そのまま夕羅はさらに加速を作ると、手を伸ばせば触れ合える最至近の距離へと踏み込んだ。同時、纏っていた鋼の拳を還し、こちらは本物の獣を思わせる装飾の施された三叉の爪をその手に顕現させる。
間断なく繰り出される動きを前に舌を巻くヤツハ。鍛えられたミコトの技を初めて目にするのがこんな間近になろうとは夢にも思わなかっただろう。
動きより遅れて理解を得る彼女に、反応など許されるわけもなかった。ましてや星空の獣と解き放つために己を駆け巡った力の衝動に意識を割かれては、瞬き一つの間に迫りくる刃を正確に追うことすら難しい。
「エヤァァァッ!」
飛びかかるように突き出される、あまりに前のめりな一撃。多少の反撃を受け入れてでも繰り出そうとする連撃を予感させる動きだったが、それに鏡の獣が応じることはなかった。
「っ……!」
代わりに犠牲となったのは、ヤツハが念じるように差し出した桜花結晶だ。軌道を逸らされた夕羅の切っ先が、ヤツハの帯を掠めていく。しかし返す刀で振り上げられた爪に充てがうには間に合わない。
だが、第二撃がヤツハの顔を切り裂くことはなかった。咄嗟に働いた防衛本能が、鈍い桜色に輝く不可思議な防壁となって刃を阻んでいたのである。
気づけば、ヤツハの頭上を宙に浮かぶ巨大な兜が覆っていた。人が被るには一回りも二回りも大きく、左右に伸びた角は勇猛さを示すよう。これこそ護りの象徴たるミズキの力を宿す証左であり、ヤツハへの堅固を約束するように悠然と聳えていた。
──エピソード1-6:山城ではじめての〇〇(後篇)より──
懐へ飛び込んできた夕羅の二連撃を、一発目はオーラ、二発目は対応防壁で受け止めます。しかし物語セットによると、夕羅のデッキに流転爪は入っていません。片方は獣爪としてもう片方はなんでしょう?雷螺風神爪ですかね?風雷撃は多分撃ち落とししか使用しておらずゲージが一つしかなく0/2になるため考えにくいと思います。というか夕羅ちゃんのデッキ序盤のゲージ死ぬほどキツそう。
ヤツハがずっと動いていなかった事を考えると、夕羅は宿し前進にかなりリソースを注ぎ込んだはずですので獣爪までで一旦リソース切れなのでしょう。
城壁を象る防壁を前に、夕羅は勢いを殺されていた。彷徨う視線は次の手を探すようで、防壁を食い破ることを諦めても前への意思は途絶えていないようだ。
故にヤツハは企図を挫くべく、己の頭を振るえば、それに追従する兜の逞しい角が眼前の空間を薙いだ。
「っと……!」
夕羅はそれに桜花結晶を充てがうことで逸らし、再び爪を突き出すだけの勢いを残そうと試みたものの、体勢は果敢な連撃を繰り出すには心もとないものとなる。
──エピソード1-6:山城ではじめての〇〇(後篇)より──
前のターンに対応を行っていたため、このターンで反攻を使用します。ミズキを宿す時の基本を抑えてますね。物語セットの対応後反攻のバフの値は+1/+1なので、2/2になった攻撃を夕羅はオーラで受け止めます。ちなみに物語セットでは陣頭は採用されていません。
距離を望むヤツハには、今度は鏡が応える。標的を見据えるように夕羅へ向けられていた鏡面がヤツハも捉えるように向き直り、僅かな後に彼女の像をその後方へと映し出した。不思議なことに、視点は刹那の後にその像の位置からのものに変わっていた。
仮初の離脱を確かなものとするべく、さらに夕羅を追い払おうと鏡から生み出したのは怪物の爪だ。消える防壁に代わって、暴虐的な斬撃が夕羅に襲いかかる。
「くっ、あぁっ……!」
人の背丈を超える大きさの爪はもはや斬撃というより打撃のほうが近かった。足捌きによって避けられないと受け流す構えをとった夕羅を嘲笑うかのように、盾とした彼女の爪と結晶ごと薙ぎ払う。その威力に怯んだかのように、ヤツハの纏っていた結晶が彼女から離れていく。
その様にさらなる追撃を訴えるのは、ヤツハを巡る鏡の力だった。鏡の向こう側にいる何者かが、彼女の意思に関係なく鏡面を跨いで溢れ出てくるような、暴走じみた衝動が内側から胸を叩き続けていた。
「だ、だめ……」
破滅的な末路すら想像してしまうそれを、ヤツハは必死に乗りこなそうと力の流れを意識する。蓋をしてしまっては意味がなく、制御することこそ重要なのだと肝に銘じて、暴れる力に己の意思を訴え続けた。
鏡による像が元に戻り、視界が大きく一歩分前にずれる。目の前では、舌打ちと共に暴虐の余韻から解き放たれた夕羅が立ち直ったところだった。
──エピソード1-6:山城ではじめての〇〇(後篇)より──
幻影歩法で一歩後ろへ下がり、星の爪で攻撃します。反攻でオーラを削られた夕羅はこれをライフに食らいます。そしてここでもやはり星の爪の【攻撃後】効果はちゃんと描写されています。
幻影歩法の効果は切れて、夕羅のターンに移ります。
「……少しはやるね」
彼女に戦意の衰えはない。それどころか、相手を食らわんとする意欲を益々漲らせているようだった。
そして夕羅は、その意を示すように、
「でも」
地面を強烈に踏みしめ、凄まじい威圧感を放つ。意思という力がびりびりと空間を伝わってくるような、不思議な力場が突如として周囲を覆った。その中で彼女は、意思の源としてヤツハへと毅然とした一歩を踏み出している。
危険を察知したヤツハは反射的に退避を選択しようとする。しかし、彼女の足はどれだけ力を込めても、地面に縫い付けられたままだった。
──エピソード1-6:山城ではじめての〇〇(後篇)より──
物語セット専用カード、敷道弐式です。相手の前進、離脱、後退を全て封じ、間合2に歩み寄ります。ヤツハが間合2で使用できる攻撃はすでに使用した反攻ともう一枚しかないのですが、この後の展開を見るにもう一枚は手札になかったのでしょう。そしてパニック状態のヤツハちゃんは纏うことも忘れちゃいます、かわいいね。
行動できないヤツハのターンはそのまま終わり、間合2且つ不動の状態で夕羅がターンを迎え、猛攻を仕掛けます。
「……!」
分かったときには時既に遅し。接近への拒絶を許さない力場の中、ヤツハの眼前にて大地を抉るほどに踏みしめられた夕羅の姿勢は、不動を貫くことで力を高めているような、破壊的な一撃の到来を告げていた。
そして腰だめに構えられた右の拳には、岩をも穿つ鋼の顕現が。
「ヤァッ!」
「ご、ぅ……!」
目で追うこともままならない鋭い正拳が、ヤツハの腹部を強かに捉えた。護りの結晶を満足に充てがうこともできず、身体の中で何かが身代わりとなって砕ける感覚がありありと分かる。それでもなお減じきれない凄まじい衝撃が、彼女の足元を不確かにさせた。
さらに夕羅は好機と見たのか、手中に爪を顕現させると、回避もままならないヤツハに向かって振り下ろす。ばち、ばち、と雷を纏ったその一撃は拳に劣らず機敏かつ鋭利で、意識をも揺さぶられていたヤツハに綺麗に吸い込まれていく。
「い、っ――ああっ……!」
重ねられた連撃に、堪らず膝をつく。兜の重みはないはずなのに、自然と頭を垂れるような姿勢が生まれる。それに先程の防壁を思い出したのか、夕羅はそれ以上の攻めの手を僅かに躊躇したが、ヤツハから窺い知ることはできない。
──エピソード1-6:山城ではじめての〇〇(後篇)より──
一撃目の拳を瞬腕とするか鉄拳とするかは悩ましいところです。瞬腕の方が見栄えもいいですしオーラ受けできなかったことも説明しやすいですが、この後連続して夕羅が攻撃を繰り出しているため全力でない鉄拳の方が理屈は合っています。不動のテキストを持つ鉄拳の方が不動で力を高める描写にも合致しますので、ここは鉄拳を選びます。
鉄拳をライフに通した後すかさず爪で追撃する夕羅。雷を纏っているため風雷撃と考えても通りそうですが、風雷撃はこのすぐ後でよりふさわしそうな描写があるため、一旦雷螺風神爪もしくは獣爪としておきます。いつ再起させた?
結晶があったところで、身を裂く一撃は苦痛を伴う。元ミコトとしてミズキから教えられていたものの、聞くのと実際に感じるのとでは訳が違う。見届人たちの存在も含め、命の危険はないと励ますように送り出されていても、ヤツハにそれを感じるなというのは土台無理な話だった。
その恐怖は、一抹のものであっても芯に据えたはずの意思を蝕んでいく。
「い、嫌っ……!」
「……!?」
鏡を御していたヤツハ自身の意思の力が緩み、鏡が輝きを放つ。その結果にもまた恐れを抱きながら、己を害する者への恐怖心は力を解き放つことを選ばせた。
鏡から現れたのは、鉤爪のついた無数の細腕。
一つ一つは大きな顎や爪ほどではない。けれど、それこそ星の数ほどもあろうかという大群は、蹲るヤツハの周囲に嵐のような暴力の場を容易く生み出した。
「ちょっ――」
夕羅が腕を一つ打ち落とそうとも、何事もなかったかのように次の腕が迫りくる。二本しかない腕では対処できる数には限界があり、結晶を盾としても完全に防ぎ切ることは叶わない。
その一方で、この嵐には安全地帯など存在しなかった。敵に向かうことだけを目的とした腕たちは、暴れまわるあまりにヤツハすらも傷つけていた。それでも夕羅の至近への恐怖は勝っており、じっと嵐が過ぎ去るのを耐え忍ぶ。
「う、うぅっ!」
「でたらめな力だ……!」
毒づく夕羅は抵抗虚しく、鉤爪の渦に飲み込まれていく。彼女のまた防御の姿勢をとって耐えきることを選んだようだった。
──エピソード1-6:山城ではじめての〇〇(後篇)より──
連撃を受ける前に引けなかった鏡の悪魔を解放するヤツハ。お互いに大ダメージを与えます。
しかし、無数の腕の中に消える夕羅の最後の表情が至って冷静なものであることに、ヤツハは息を呑んだ。にやりと歪められた口元に悪寒を覚え、自身をも苛む嵐の中で歯を食いしばりながら立ち上がった。
しばらくするうちに、殺到した腕は力を失って日差しの中にゆっくりと消えていった。
そうして現れる、夕羅の姿。
「でも、それは悪手だよ」
膝をつくことなく、勝利を確信する声と共に、反撃の意思を示すべく爪を掲げていた。
消えた星空の代わりに纏うは、漂う桜色の霞を巻き上げる風と、怒りを体現するかのように嘶く雷。
暴虐的な嵐を乗り越えた先には、新たな嵐が待っていた。
「あ……」
今度は自分がその嵐に呑み込まれるのだと、ヤツハは悟ってしまった。恐れに突き動かされて遮二無二力を放ったところで、倒せなければその次が粛々とやってくるだけだった。
我こそが食らう者だ、と主張するように、夕羅の爪が獣の大口のように構えられる。周囲で鳴り荒ぶ嵐が指向性を持ち、ヤツハという獲物へ狙いを定めた。
「はあぁぁぁぁッ!」
大地をかき乱す風雷が、強烈な一撃となってヤツハに襲いかかる。彼我の間合いを切り裂くような鮮烈さが、彼女の脳裏に敗北の二文字を過ぎらせる。
──エピソード1-6:山城ではじめての〇〇(後篇)より──
ライラオリジンを象徴する通常札、風雷撃です。いつゲージを溜めたのか定かではないがかなりの威力を持ってヤツハへ襲いかかります。
なぜこの描写を雷螺風神爪でなく風雷撃としたのかは、この後の展開にあります。
「――――」
大自然の猛威を前に、動くことも、声を上げることすらできない。
そんなヤツハの脳裏にはふと、旅立ちを決意した山の景色が思い起こされた。それからはまるで走馬灯のように、北限からこの山城に至るまでの旅の様子が次々と浮かんでは消えていった。
決別したコルヌと、手を取ってくれたクルル。有り様の手本となるハツミに、人からの視点をもたらして天詞たち。近くは鞍橋で起きた夕羅との諍いがあり、そして今、山城で刃を交える自分がある。
視界の端でさざめく神座桜と、根本にいるはずのクルルたち。
そして眼前では、己と鏡をどこか蔑視する相手が、ヤツハの向こう側にある勝利へと手を伸ばさんとしていた。
「…………」
言葉は出ない。けれど、彼女の胸に飛来する想いはあった。
まだ、分からないことだらけ。誰かに導かれてばかりいる。
それでも自分は今、己の足でここに立っている。
だから、
『あぁ、ここは、勝っておきたい』
と。
自分でも驚くような、そんな柄にもない感情だった。もしかしたらそれは、反感を礎とした仄暗い出処の想いかもしれない。
けれどヤツハは、じわじわと染み渡るその感情を受け入れた。終わりをもたらす一撃という光景があっても、自身でらしくないと思っても、もう一度、手をぎゅっと握りしめて立ち向かう意思を奮い立たせる己を、止めることなんてできなかった。
──エピソード1-6:山城ではじめての〇〇(後篇)より──
勝利への渇望の芽生えです。己の存在を否定する相手に対し「私はここに居る、ここに居たい」という意志の現れが感じ取れます。
そしてヤツハは、背後に控えた鏡へと、決意を込めた。
すると、
「何を――」
眩い輝きを放ち始めた鏡が、ヤツハの盾となるように差し出される。
大嵐の前では、一抱えほどもある鏡であろうとも容易く吹き飛ばされてしまう……はずだった。
しかしヤツハの鏡は、風雷を受け止め――そして、弾き返した。
「な……!」
まさしく鏡写しにするように、鏡面に触れた途端に反転する嵐は、それを成した夕羅の元へと向かう。
跳ね返したそれは、確かに荒ぶる風であり、地を裂く雷だ。
けれどその実態は、あの怪物のような星空――静謐な夜の海など知らない鏡の向こうの何かが、夕羅の放った大嵐を象って現れたのである。
「ぁ、がぁっ……!」
元の嵐はかき消され、予想外の反撃に夕羅は防御もままならずに弾き飛ばされる。それでも彼女は、身の内に残された結晶を頼りに膝をつくことはなかった。
──エピソード1-6:山城ではじめての〇〇(後篇)より──
対応双葉鏡の祟り神で風雷撃を打ち消し、攻撃を反射します。直前に鉄拳と爪の連撃、そして鏡の悪魔でライフが削れているため反射に成功したのでしょう。打ち消しをしているため、切札の雷螺風神爪ではなく風雷撃で間違いないと思います。
一般のミコトには扱えない力だったのか、鏡の欠片と対面したことがありそうな夕羅にとっても祟り神は予想外な反撃だったようで、ライフにダメージがモロに入り、情勢はまた変化します。
「あぁッ、ちくしょう……、でも……まだだッ!」
決定的な一撃を打ち破られた苛立ちが、悪態となって表れる。その右手には雷を帯びた爪を、左手には鋼の拳をそれぞれ顕現させ、黒き暴風の止んだ彼我の間合いを猛進する。この段になって武器を同時に顕現させる技量は称賛されて然るべきものだ。
けれどそれも、正しく使われれば、の話。
決着までのあと一歩こそ、冷静さをもって踏破しなければならない。糧とするべきは執念であり、自尊心のような不純物は致命に足る枷となる。
「……焦りすぎだ、未熟者」
ぽつりと、眇めるコダマが零した声も、夕羅には届かない。
そして対するミズキは、頬に薄く微笑みを乗せて、隠した口元から言葉を漏らす。
「今ですわ……!」
走り込む夕羅は獣性すら思わせる低い姿勢でヤツハへと食らいつく。もはや火を見るより明らかとなった互いの敏捷さは、肉薄した後こそが駆け引きの場なのだと告げている。
事実、瞬く間に距離を詰めた夕羅の爪は、電光石火の勢いでヤツハの腕をえぐった。
「っ、ぅ……!」
「おォッ……!」
まろび出る結晶。雄叫びを上げてさらに一歩、表情の機微すら見て取れるほどの至近に至り、力を蓄えていた拳を次弾として繰り出す。
しかし、打撃されたのはヤツハの肉体でも結晶でもなく、堅牢な護り。
「ぐッ……!?」
城壁を模した光の壁が、続く拳を受け止めていた。
見れば、ヤツハを覆う兜が淡く輝いている。まるでそれは、庇護する主に対して、今こそが好機だと告げているようであった。
──エピソード1-6:山城ではじめての〇〇(後篇)より──
リーサルを逃しましたが、ヤツハのライフが風前の灯であることに違いはありません。一度挫いてもまだ勝機はあると判断する夕羅はそのまま押し切ろうとします。爪の攻撃をライフに通し、続いて(おそらく)鉄拳も打ち込みます。
しかし、ヤツハを守る力は自分の物だけではありません。彼女は今、守護を象徴するメガミの力も身につけているのです。
その意を、無駄にすることはない。
勝ちたい、と願ってしまったからには。
「来てッ!」
兜の声に従い、か細く吠えるヤツハ。それに応えるように、鏡の向こうから星空が怒涛の勢いで溢れ出す。
振るわれる巨大な爪は、防護壁に勢いを全て殺されてしまった夕羅を容赦なく斬りつける。護りを固めるしかなくとも、集めた桜花結晶を根こそぎ刈り取られてしまえば、後のない無防備な状態を晒すしかない。
「う、ぐぅぅぅ……!」
そして鏡の怪物は、大口を開けてその最期を待っていた。
見上げるほどに大きな、怪物の咢。
その、落ちてくる厄災のような星空に、夕羅が抗うことはできなかった。
「あぁぁぁぁぁ――」
がぶり、と。
恐怖ではなく、憤りの叫びと共に、彼女は呑み込まれていった。
大顎の獰猛な歯の隙間から、砕けた結晶が風に乗って散っていく。
夕羅に残されていた、最後の結晶が。
──エピソード1-6:山城ではじめての〇〇(後篇)より──
天主八龍閣によって強化された3/3の星の爪でオーラを破壊し、最低でも3/2以上の昏い咢によってリーサル、ヤツハの勝利です。ちなみにヤツハのデッキに星の海もありましたがさすがにフレアが足りないと思います。
以上で、ヤツハvs夕羅の決闘は終わりです。
鞍橋での出会いで鏡の力を「危険で異質」という理由で使わないように諌めていた夕羅ですが、それだけでなく、鏡の欠片を使って謎の力を手に入れるミコトたちを、夕羅はどこかで「鍛錬を怠り危険な力に頼って楽に強くなろうとしてる輩」として見下していたのでしょう。故郷を離れ修行の旅に出た夕羅にとっては許せない行いに見えていたとも思います。
しかしヤツハにとってこの力は己の根源であり、向き合うべき物です。この戦いを経て、ヤツハが力に向き合う真剣さを知った夕羅は、今度は純粋にその力の危険性から、ヤツハを心配し忠告を言い渡し、決闘を通じて鏡の力の強大さと危うさを身をもって知ったヤツハも、それを素直に受け取りました。ヤツハにとってこの戦いは、初めて決闘の形で「自分を否定する者」と真っ向からぶつかった一戦であり、自分のことも世界のことも何一つ知らない中でそれらへの向き合い方や己の存在意義はここからの物語でも大事なテーマになります。正面から否定してくるものに自分を認めさせたって考えるとこれって最終盤の神座桜に認められる展開と対応してるんじゃ?はぁエッモ
神語りの決闘録では不定期にこのように公式小説に登場した決闘シーンについて勝手に考察/解説していく予定です。これを見て「面白そう」と思った方は、ぜひ公式小説を読んでみてください。それではまた次回。
画像素材:
https://main-bakafire.ssl-lolipop.jp/furuyoni/na/rule.html
(ふるよにコモンズ/BakaFire,TOKIAME)
ところで夕羅ちゃんの外見設定ってどんな感じなんですかね?個人的には褐色八重歯赤髪ポニテ身長140cmぐらいだと嬉しいんですけどそれが千洲波との戦いでライラA様と同じ服装を着て身体中に紋様を付けるんですか?えっち過ぎません?ねぇBakaFireさんそこんとこどうなんですかねぇねぇねぇねぇ